色変の天狗

栗谷地方の古い伝承。冬至の次の日には天狗の赤ん坊が生まれるという。100匹ばかりがいっせいに生まれ、中に1匹や2匹と色の違う天狗が混ざる。多くは紅いが珍しいものは葦毛の馬のような色や金色。色変わり天狗は将来、徳の高い山の神となると信じられている。

https://twitter.com/1day1nonsense/status/1586346837543223296

+

その天狗は色変わりの中でも特に珍しい、黒褐色に青の斑点模様だった。目にも鮮やかなトルコ石の青が、年月を経に経た木材のような黒い褐色の中にぐらぐらと煮立つ泡のような形に浮かんでいた。

天狗は三人の猟師に出会った。
最初の猟師は壮年の男だ。彼は天狗を見て「毒々しい」と言い、後々になって毒キノコを食って死んだ。
次の猟師はまだ子供に近い年頃で、天狗を見て「美しい」と呟いた。帰り道、その子は内側が青い羽の蝶に誘い出されて崖から落ちた。
最後の猟師は巌のように年老いていた。彼は天狗を目の当たりにしたが、ああ天狗だなと思っただけだった。色変わりの天狗は狩れば高く売れる、祀れば山神になった後に福をもたらすという。だが老人はただ「天狗が出たわい」と肩をすくめただけで通り過ぎた。

老人はつつがなく、長く生きたという。

しかして、天狗はただ天狗だった。毛色はどうあれ、ただ生まれ、ただ猟師らに出会っただけ。二人が死んだ事も、一人が生きた事にも関係なく、毒を持たず、美しいと飾られず、狩られず祀られず神様にもならず、ただ生き生きていずれ絶える。ただ、それだけ。

天狗もまた、つつがなく長く生きたのだ。



おしまい。


天狗が生まれる話ごと全く架空の伝説なのか、実はごく普通の動物なのか。その辺は謎のまま、この話が伝わる世界には天狗が生まれる日があることだけは確か、そんな話。

デタラメのつづき
デタラメのつづき

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

inserted by FC2 system