ガラス玉 賛歌

「青いガラスは瑠璃花の種、赤いガラスは曼珠沙華の実」と歌いながら、ガラス玉売りが道を歩いていく。両端にガラス玉の入った籠をぶら下げた天秤棒を担ぐ姿は、夏も冬も変わらぬこの地方の名物だ。

https://twitter.com/1day1nonsense/status/767535725034090496

+

ガラス玉売りの声が近づいてくる。
きっと日に焼けた顔のおじさんが天秤棒を担いでいるのだ。首に引っ掛けた白い手ぬぐいで汗を拭き拭き来るのだろう。それでも流れた汗の玉が、筋張った首をつっと伝うのだろう。

ふ、と意識が浮上する。目を開けると、今見たはずの夏はどこにもない。木漏れ日で天井まで明るい縁側、障子紙、古い木目。何もかも。ああ、夢を見ていたのだ。
寒空のテラスで転寝をしたせいで少し寒い。ごわごわと肩を動かしていると現実の世界でもガラス玉売りの声がした。いや、逆か。この声が眠っていた自分の耳に潜り込み、夏の夢を見せたのか。
「青いガラスは瑠璃花の種~♪ 赤いガラスは曼珠沙華の実~♪」
木枯しが歌声を押し流す。しわがれた声はガラスを溶かすための熱気でのどが傷むからだと噂に聞いた。それは本当だろうか。
誰かがガラス玉売りを呼び止めたようだ。首を伸ばして見ると、時々この町を訪れる女性の旅人だった。
バックパックを背負って、登山にでも行きそうないでたちである。ガラス玉売りと談笑する彼女は、いつも赤、青、黄色ととりどりのガラス玉をたくさん買って行くことで知られている。
「少し前までは青が一番人気だったんですけれど」
朗らかに、彼女の声はよく透る。
彼女はこれからガラス玉とともに山に登り、海へと降るのだ。何日もかけ、ひどい苦労を支払った末にガラス玉は宝玉に育つ。そんなことができるという話を私は地元の郷土資料館で聞いた。今は昔、これをやり始めた最初の人は何を思ってそんなことをしたのかしらと首を傾げながら。
物思いの隙に、旅人とガラス玉売りはやり取りを終えていた。
「青いガラスは瑠璃花の種~♪ 赤いガラスは曼珠沙華の実……」
再び歌が流れ、遠ざかる。
旅人の声を盗み聞くに、今の流行はピンクと淡い紫だそうだ。

おしまい。

+

ガラス玉を宝玉にする方法。霊峰青侘山脈の標高200m付近にある水間千草の花につく朝露をまんべんなく塗り、朝日に当てた後、海辺の砂に埋めて数日待つ。かなり大変な作業なのでなかなか行う者はいないが、ビー玉一個が数万円の価値を持つ珠となるため職として取り組む人もいる。

https://twitter.com/1day1nonsense/status/881686188117041152
デタラメのつづき
デタラメのつづき

コメントする

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

inserted by FC2 system